過去接続

時間移動を「何でもあり」にすると、因果と責任が壊れます。ここでは“過去へ行けてもパラドックスが起きない”ための最小条件だけを固定します。

このページの結論

過去へ接続できても、同じ層の過去には戻れない。必ず「別の層(別の枝)」へ接続する。
これにより、祖父殺しのような矛盾を避けつつ、物語としての時間移動は成立します。

なぜ「同じ層の過去」を禁止するのか

同じ層へ戻れると、観測・記録・責任が循環し、世界の記述が壊れます。
この世界観では、通常物理を破綻させないために、時間移動は「層の切り替え」として扱います。

過去接続の最小図

層 L0
現在 → 未来
層 L1
L0とよく似た過去を持つ

過去へ行くのではなく「過去に似た状態を持つ別層へ接続する」。

図9-1 過去接続の最小図。戻れるのは L0 の過去ではなく、別層 L1 側の過去側。

過去接続の成立条件(3つ)

過去接続は「時刻を巻き戻す術」ではなく、過去に近い層を選び、その層と短時間だけ同期をとる手続きです。
そのため、成立条件は次の3つに落ちます。

条件意味足切り
参照アンカー 「どの過去」を言うかの基準。アンカーIDが必須。 アンカー不明・同期不良なら接続不可
再現度 \(V_{\mathrm{past}}\) 目的の過去にどれだけ近い層を拾えるか。 \(V_{\mathrm{past}}\ge V_{\min}\) を満たす
支払いと速度 反作用コスト \(C\) と反作用率 \(\dot C\) の上限。 \(C\le C_{\mathrm{budget}}\)、\(\dot C\le \dot C_{\max}\)

再現度と最小コスト

過去接続で求めるのは「自分の層 L0 の過去と十分近い層」です。近さの指標を再現度 \(V_{\mathrm{past}}\) [-] として、次の最小形を置きます。

\[ V_{\mathrm{past}}=\exp\!\left(-\frac{\Delta\Theta^2}{2}\right). \tag{20} \]

\(\Delta\Theta\) [-] は「過去の差分量」です。ゼロに近いほど同じ過去に近く、値が大きいほど異なる過去になります。
この差分を小さく抑えるほど、過去接続は高価になります。

\[ C_{\min}\approx \xi\,\Delta\Theta^2. \tag{21} \]

\(\xi\) [RU] は「再現度を上げるための係数」です。式(20)(21)を合わせると、必要反作用は

\[ C_{\min}\gtrsim 2\xi\,\ln\frac{1}{V_{\min}}. \tag{22} \]
例:同じ過去に“かなり近い層”を拾うコスト

\(V_{\min}=0.90\)、\(\xi=25\,\mathrm{RU}\) なら \(C_{\min}\gtrsim 5.3\,\mathrm{RU}\)。
\(V_{\min}=0.99\) に上げると \(C_{\min}\gtrsim 11.5\,\mathrm{RU}\)。
「より近い過去ほど、急に高く付く」という性格が出ます。

接続窓の長さ(古いほど細くなる)

過去が古くなるほど再現度は下がり、接続できる「窓」は細くなります。最小モデルとして、再現度が時間差で指数的に落ちると置きます。

\[ V_{\mathrm{past}}(\Delta t)=\exp(-\lambda \Delta t). \tag{23} \]

\(\lambda\) [1/day] は「過去が離れるほど枝が散る速さ」です。必要な再現度 \(V_{\min}\) を満たすには、

\[ \Delta t \le \frac{1}{\lambda}\ln\frac{1}{V_{\min}}. \tag{24} \]
運用の直感

数日前なら「似た過去」がまだ集まっているが、数年・数十年となると枝が散り、
同じ過去に近づくほどコストが爆発する。結果として「遠い過去ほど稀な神業」になります。

条件を付けると、何ができて何ができないか

例:3日前に戻って“やり直す”

3日前に戻る接続が成立するとしても、戻る先は別層です。
したがって「自分の層 L0 の過去の自分を殺して、L0 の現在を消す」はできません。
できるのは「L1 の3日前に介入して、L1 の未来を変える」です。

過去接続の最小手順(運用)

過去接続は「接続→介入→帰還」を一続きで管理します。途中で同期が切れると、帰還先がずれます。

参照確定
アンカー A を固定
過去接続
層 L1 を選別
介入
端末操作
帰還同期
A に再同期
図9-2 過去接続の最小手順。帰還は「同じ場所へ戻る」ではなく「アンカーへの再同期」。
past_link_request := (anchor_id A, offset dt, V_min, ttl, signature)
past_link_reply := (layer_id L1, V_est, window, cost_est, signature)
execute if V_est >= V_min and cost_est <= C_budget within window
return by resync_to(A); if resync fails, fall back to nearest layer

観測と介入は分けて考える

過去接続は「見るだけ」なら比較的軽く、「介入」まで行うと反作用が重くなります。
物語上は、この差で制約が作れます。

方式できること制約
観測のみ 過去層の様子を見る、ログを読む。 再現度の下限は高くないが、ログの改ざんは不可。
介入あり 端末を動かし、過去側の分岐を変える。 反作用と同期コストが大きい。帰還の失敗リスクが増える。

帰還と層の選別

帰還は「L0 に戻る」ではなく、「アンカー A へ再同期する」手続きです。
再同期の品質が低いと、戻った先は L0 ではなく“近い層”になります。

\[ P_{\mathrm{return}}\approx V_{\mathrm{sync}}\,V_{\mathrm{past}}. \tag{25} \]

\(V_{\mathrm{sync}}\) は帰還時の同期品質、\(V_{\mathrm{past}}\) は過去接続の再現度です。
どちらかが低いと、帰還成功率は下がります。

帰還型条件結果
厳密帰還 \(V_{\mathrm{sync}}\) が高く、アンカーが健在 元の層 L0 へ戻れる
近傍帰還 同期が粗い/接続窓が切れる 似た層へ戻る(微妙な差が残る)
断絶 アンカー喪失・反作用枯渇 帰還失敗。過去側に取り残される
持ち帰りの制限

過去層で入手した物質や情報は、層位相がずれるため「そのまま」L0 へ持ち帰れません。
持ち帰るには、アンカー同期で位相合わせをするか、情報だけを再記録する必要があります。

記録と責任(監査ログ)

過去接続は「別層に干渉した」という記録を必ず残します。これが無いと、条約や責任が破綻します。

audit_log := (anchor_id A, layer_id L1, offset dt, window, operator_id, signature)
reject if layer_id matches current layer or if signature invalid
運用の帰結(物語に効く点)